8月 12, 2025

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はじめに

スマートマニュファクチャリングは、デジタル技術と従来の製造プロセスを融合させたものです。この変革の中心にあるのがフィジカルAI(人工知能)で、AIアルゴリズムはロボットアーム、無人搬送車(AGV)、コンピュータ数値制御(CNC)マシンなどの物理システムを統合します。これらのシステムが有効に機能するためには、物理的環境からのリアルタイムデータが必要であり、それを供給するのがセンサーです。システム全体の目や耳として機能する産業用センサーは、現代の製造やオートメーションにおいて不可欠な存在となっており、基本的な測定デバイスから、ディスクリートおよびプロセスオートメーションのさまざまな側面を検知、監視できる高度なシステムへと進化を遂げています。産業用センサーは、AI(ビジョンAI、音響AI、フィジカルAI)と連携することで、製造の生産性、安全性、デジタルツイン、および分析を向上させる自己学習型の物理システムを実現できます。

本ブログは、設計エンジニアがAIを活用した産業用アプリケーションに適したセンサー製品を選定するのに役立つ情報を提供することを目的とした2部構成の記事になっています。Part1では、さまざまな種類のセンサーとその用途について詳しく説明します。Part2では、産業用センサーの技術革新や、フィジカルAIシステムとスマートマニュファクチャリングにおける最新のトレンドについて解説します。


産業用センサーの基本と動作原理

産業用センサーとは、距離、圧力、温度、レベル、液面、動き、速度、加速度などの物理的パラメーターを検知して処理するデバイスのことです。製造プロセスの監視や制御に必要なデータを収集します。このデータはその後、デジタル/アナログI/Oなどの通信モジュールを介して、プログラマブルロジックコントローラー(PLC)やCNCに送られます。

一般的な産業用センサーの主要なビルディングブロック(図1参照)には、センシングエレメント、電圧リファレンス、オペアンプ(OpAmp)、A/Dコンバーター(ADC)、プロセッサー、インタフェース、パワーマネジメントなどがあります。センシングエレメントは物理的パラメーターを測定し、それを電圧、電流、抵抗などの電気信号に変換します。

図1. 代表的な産業用センサーのビルディングブロック

産業用センサーは、人体の神経系のようなもので、AIと現実世界の間のインタフェースとして機能します。デジタル世界が物理的環境と情報をやり取りするには、これらのアナログおよびミックスドシグナルセンサーが必要です。次世代の産業オートメーションシステムには、IT(情報技術)クラウドにAI機能が搭載されるだけでなく、現場に導入されるOT(運用技術)デバイスにもAIが組み込まれます。これは迅速な意思決定を行うために、センサーやPLC/ロボットのエッジデバイスでAIアルゴリズムが使用されることを意味します。ここでは、産業オートメーションで使用されるセンサーに的を絞って解説します。


センサーの種類

  • イメージ(ビジョン)センサー: イメージセンサーは、製造中の製品の画像や動画をカメラで撮影し、製品の有無、向き、精度を判定します。イメージセンサーは品質管理や検査に不可欠です。これらのセンサーは、1個のセンサーで製品の複数箇所を検出して、マシンビジョンをサポートすることができます。オンセミイメージセンサー短波長赤外線カメラは、低い消費電力で優れた画質を実現します。ハイダイナミックレンジと低照度性能を備え、どのようなスマートファクトリー環境でもユーザーシステムに最高の結果をもたらします。
図2. マシンビジョンシステムのブロック図
  • 位置センサーおよびトルクセンサー:モーターの位置制御にはホール効果センサー、力覚センサー、光学センサーが使用されてきましたが、磁石や高精度抵抗などのセンスエレメントや、光学式エンコーダーの複雑な製造プロセスまで含めたトータルソリューションで考えると、これらのセンサーは非常にコスト高になります。モーションコントロールやロボティクス関連のアプリケーションでは、巻線パターンを形成したPCBをセンスエレメントとして使用し、これにAFEとコントローラーを組み合わせた誘導型位置センサーを使用する形態が新しいトレンドとなっています。NCS32100およびNCV77320は、優れた温度耐性、簡素な機構、汚染への耐性など、従来の位置センサーにはない独自の利点を備えています。
  • 超音波センサー:超音波センサーは超音波を利用して距離を測定します。(光センサーとは異なり)透明な物体の検出に最適で、埃や汚れの影響を受けません。近接センサーの良い例が、25cm~4.5mの範囲で物体を検出できるオンセミNCV75215です。自律走行ロボットでは、ナビゲーションや障害物回避に超音波センサーが使用されています。超音波センシング技術は、プロセスオートメーションアプリケーションで、流体の流量や液面の検知、さらには完成品の品質検査での欠陥/亀裂の検出にも使用できます。
  • 光電センサー:光電センサーは光を使用して物体を検出します。透過型、回帰反射型、拡散反射型に分類され、それぞれに独自の機能と用途があります。光電センサーは、非接触での検出、ほぼすべての材料の検出、見通しが確保できれば遠距離での検出が可能です。これらは赤外線およびレーザー技術を使用しています。優れた反射型センサーの良い例がオンセミのシンプルなQR1113です。この製品では、940nmの赤外線エミッターと対応するシリコンフォトトランジスターが隣り合わせに配置され、表面実装パッケージおよびスルーホールパッケージに封入されています。
  • 近接センサー:近接センサーは、電磁誘導の原理を利用して、物理的な接触なしに金属製の物体を検出します。近接センサーには、埃や油などの環境要因の影響を受けにくいという特長があります。非金属物体には、超音波および光電技術が適しています。
  • 圧力センサー:圧力センサーは、空圧、油圧、またはクリーンルーム環境で使用され、最適な稼働状態を維持し、異常があれば警告を発します。一般的に、ホイートストンブリッジ構成で配置されたストレインゲージまたは感圧抵抗器に基づき、誤差を相殺して圧力を微小電圧として測定する仕組みになっています。
  • 温度センサー: 温度センサーは、食品加工からマシンの稼働まで、幅広い産業で温度を監視し調節します。熱電対や測温抵抗体(RTD)が一般的に使用されますが、オンセミADM1023などの半導体温度センサーも広く利用されています。
  • 環境センサー:ガスセンサーや化学センサーのような環境センサーは、警戒が必要な環境において特定の有毒ガスや可燃性ガスを監視します。これらのセンサーは、多くの場合、安全システムに組み込まれます。もともと車載アプリケーション向けに設計されたNCV76124のような雨滴・照度センサーは、フォトダイオードを使用して光を照射し、その反射光を測定することで、環境内の微粒子を検出できます。あるいは、持続血糖測定(CGM)で使用されるCEM102電気化学センサー用アナログフロントエンドは、非常に低いシステム消費電力で動作しながら、RSL15 Bluetooth® 5.2対応マイクロコントローラーと併用して化学電流の微小な変化を測定できます。


センサーに関する重要な考慮事項

スマートマニュファクチャリングでフィジカルAIシステムの機能を強化する適切なセンサーを選定する場合に、優先して考慮すべき5つの重要事項を以下に示します:

  1. 用途に応じた精度と速度:センサーは、リアルタイムの品質検査、予知保全、ロボット制御など、特定のAIタスクが要求する精度と速度に適合する必要があります。
  2. データの品質と信頼性:センサーは時間経過とともに膨大な量のデータを生成し、AIがこのデータを分析して法則性を見つけ出すことができます。製造エコシステム全体で迅速な意思決定をサポートするには、AIモデルの学習と運用のために、信頼性の高いデータを繰り返し供給するセンサーが不可欠です。
  3. 相互運用性および統合:センサーは、既存の製造システムとシームレスに統合し、標準的なフィールドバスおよび通信プロトコルをサポートする必要があります。つまり、新しいAI対応センサーはコンパクトで相互運用可能でなければなりません。
  4. サイバーセキュリティとデータプライバシー:ネットワークに接続されたセンサーが増えると、サイバー脅威のリスクも増大し、OTおよびITセキュリティに対する要求も高くなります。特にAIシステムが、意思決定にセンサーからのセンシティブな運用データに依存している場合、エッジでの安全なデータ伝送を確保することがきわめて重要です。これは脅威を検知して隔離できる自己較正機能や冗長性を備えたセンサーによって実現できます。
  5. 持続可能性とエネルギー効率:フィジカルAIのためにセンサー数を増やすとしても、事業者はシステム全体の消費電力をバジェット内に抑える必要があり、少ない電流で動作するセンサーは拡張性の点で有利になります。


結論として、産業用センサーは、フィジカルAIシステムがエッジとクラウドの両方で現実世界を認識し、理解して、情報のやりとりを可能にする基本的なビルディングブロックです。AIが進化し続ける中、AIの潜在能力を最大限に引き出し、スマートマニュファクチャリングにおいてよりインテリジェントで適応性の高いシステムを開発するために、センサー技術の進歩が重要になります。オンセミは、インテリジェントセンシング技術分野でリーダーとしての地位を築いてきました。オンセミは、幅広いセンサー製品ポートフォリオとアプリケーションの専門知識を持ち、お客様のインダストリー5.0への移行を全面的に支援しています。パート2のブログでは、センサーの技術革新と今後のトレンドについて、さらに詳しく解説しますので、ぜひご覧ください。


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